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今いちばんホットな話題 中枢神経変性症Ver.1 2024/3

中枢神経変性症(LCH-neurodegeneration:ND)
Frequently Asked Questions(FAQ)

LCHに伴う「中枢神経変性症」って何?

幼いときにLCHを患った患者さんが、LCHと診断されてから10年以上してから、ふらついて歩けなくなったり物を飲み込めなくなったりして、しだいに精神失調をきたし、寝たきりになってしまうことがあると、30年ほど前に報告されました。その後、この状態はLCH関連中枢神経変性症(LCH-neurodegeneration[ND])と認識されるようになり、LCH患者さんの10~20人に1人ぐらいが長い経過の中でLCH-NDを発症することがわかってきました。LCHの最も重大な晩期続発症であるLCH-NDについて解説します。

LCH関連中枢神経変性症はどのように経過しますか?

図1.LCH関連中枢神経変性症の典型的な経過

図1. LCH関連中枢神経変性症の典型的な経過

図1に典型的なLCHNDの経過を示します。LCHと診断された時にLCH-NDを発症していることは極めてまれです。多くの場合、LCHと診断されてから3年以上経て、多くの患者さんでは元々のLCHの骨の病変などがなくなっている時期に、脳MRI検査で小脳に左右対称性の異常信号が出現します(図1中、図2A)。

A.小脳虫部の左右対称性T2高信号病変 B.嚢胞状変化 C.著しい小脳萎縮

A.小脳虫部の左右対称性T2高信号病変
B.嚢胞状変化
C.著しい小脳萎縮

小児LCH患者さんの4人に1人にこの脳MRI異常がみられると言われています。まだ神経の症状はなく、脳MRI異常のみの場合、放射線学的中枢神経変性症(radiologicalND)と呼ばれます。小脳以外にも、橋被蓋や基底核と呼ばれるところに異常信号が出ることもあり、ほとんどが徐々に悪化します。

脳MRI検査で異常が見つかった患者さんの4人に1人は、数年以内に歩行時のふらつきや呂律が回りにくい、物が飲み込みにくい、指が震えるといった運動失調や、知能低下や学習障害・性格変化などの精神失調が出現します。

この状態を臨床的中枢神経変性症(clinicalND)と呼びます(図1右)。このとき脳MRI所見は悪化し、嚢胞状変化(図2B)や脳萎縮(図2C)が現れてきます。 神経症状の進行は個人差が大きく、軽度の運動失調のみで経過する例から数年で寝たきりになる例まであります。

LCH関連中枢神経変性症の頻度はどれくらいですか?

図3.JLSG-96/02試験に登録された小児LCH320例(多発骨型、多臓器型)での臨床的中枢神経変性症の発症率

図3. JLSG-96/02試験に登録された小児LCH320例
(多発骨型、多臓器型)での臨床的中枢神経変性症の発症率

臨床的中枢神経変性症、すなわち神経症状を伴う中枢神経変性症は、LCHの診断から5年後以降に増加し、15年後くらいまでは増えていきます(図3)。
日本でLCHの治療を受けた小児患者さんでは、LCHの診断後3年で1.3%、5年で2.0%,10年で4.1%,15年で5.7%に、臨床的中枢神経変性症がみられました。

脳の中で何が起こっているの?

図4.中枢神経変性症の病変部位 LCH細胞と同じ遺伝子変異を持つマクロファージと、細胞障害性Tリンパ球が、神経細胞を攻撃し神経変性が生じる

図4.中枢神経変性症の病変部位
LCH細胞と同じ遺伝子変異を持つマクロファージと、細胞障害性Tリンパ球が、神経細胞を攻撃し神経変性が生じる

中枢神経変性症になった患者さんの脳の病変部では、マクロファージや細胞傷害性T細胞と呼ばれる白血球=免疫細胞が見られます。また、オステオポンチンなどの免疫を活発にする炎症性サイトカイン/ケモカインがたくさん出ています。このことから、神経細胞は免疫細胞の攻撃、すなわち「炎症」によって壊されていると考えられます。免疫は外敵をやっつけるのが本来の望ましい働きですが、自分自身に牙を向くと大変なことになります。

LCH細胞やマクロファージはどこからやってくるのでしょうか?骨の中(骨髄)で単球という細胞が作られて血液中に流れ、それがLCH細胞やマクロファージになっていきます。脳の中にいる一部のマクロファージは、LCH細胞と同じBRAF V600E変異(後述します)を持っています。ということは、LCH細胞とマクロファージはBRAF V600E変異をもった共通の単球から作られたと考えられます。BRAF V600E変異をもった単球は、脳の中に入り込みやすく、狂暴なマクロファージとなってたくさん炎症性サイトカイン/ケモカインを出して脳の中で暴れ回ります。また、BRAF V600E変異をもった単球は、BRAF V600E変異をもたない普通の単球を扇動し、脳の中に入り込ませで暴れさせている可能性があります。

中枢神経変性症になりやすい患者さんについて

どのようなLCH患者さんが中枢神経変性症になりやすいかは、ある程度分かっています。以下に挙げてみます(表1)。

表1.LCH関連中枢神経変性症のリスク因子

リスク因子 「あり」と「なし」を比較した相対リスク
BRAF V600E変異 10倍以上
中性尿崩症または下垂体前葉不全 10倍以上
中枢神経リスク部位への再発 数倍
  • BRAF V600E変異のある患者さん

    LCH細胞にはいろいろな「発がん性遺伝子変異」があります。詳しくは、「LCHってどんな病気?」の「4.原因はなんですか?」を参照ください。この「発がん性遺伝子変異」の中で、BRAF V600E変異が最も多く、LCH患者さん全体の約半数に見られます。中枢神経変性症になった患者さんに限ってみると、10人中9人がこのBRAF V600E変異があることがわかってきました。BRAF V600E変異がある患者さんは、ない患者さんに比べると、中枢神経変性症になる可能性は10倍以上高いと考えられます。

  • 中枢性尿崩症や下垂体前葉ホルモン分泌不全のある患者さん

    脳の底は頭蓋底と呼ばれる骨があります。そこにトルコ鞍と呼ばれる窪みあり、下垂体というホルモンの中枢があります。LCHの患者さんでは、下垂体の後側の部分(後葉)から分泌される抗利尿ホルモンが出なくなり尿が多量に出てしまう、すなわち、中枢性尿崩症になることがあます。また、下垂体の前側の部分(前葉)から分泌される成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモンなどの様々なホルモンの出が悪くなることがあります。中枢神経変性症になった患者さんのうち、3人に2人は既に中枢性尿崩症があった患者さん、5人に2人は既に下垂体前葉ホルモン分泌不全があった患者さん、4人に3人は既にどちらかがあった患者さんだということがわかりました。中枢性尿崩症や下垂体前葉不全がある患者さんは、ない患者さんに比べると、中枢神経変性症になる可能性は10倍以上高いと考えられます。

  • 中枢神経リスク部位の骨病変がある患者さん

    目や耳・鼻の近くの骨や頭蓋底の骨は中枢神経リスク部位と呼ばれます。LCH診断時にこのあたりの骨に病変があると、中枢性尿崩症が生じる可能性が2-3倍高いという海外からのデータがあるためです。日本のシタラビンを使う治療(JLSG-96/02)を受けた患者さんでは、LCH診断時に中枢神経リスク部位に骨病変があるかどうかは、中枢性尿崩症の発症と関係はありませんでしたが、中枢神経リスク部位の骨に再発した患者さんは、他の部位に再発した患者さんに比べて、中枢性尿崩症の発症が8倍高いことがわかっています。前述のように、中枢性尿崩症になる中枢神経変性になりやすいので、中枢神経リスク部位に骨病変のある患者さんは、中枢神経変性に注意が必要です。

中枢神経変性症って治療はあるの?

一般的に、神経細胞は一度壊されてしまうと元に戻らないと言われています。神経細胞が壊されても、周りに元気な神経細胞がいれば、壊された神経細胞の代役をある程度やってくれるようになり、症状が改善することがあります。なので、神経細胞の破壊が進んでしまわないうちに手当をすることが大切です。これまでLCH関連中枢神経変性症に対して様々な治療が試みられてきましたが、まだ決定的な治療法がないのが現状です。以下に治療法を紹介します。

  • IVIG療法

    免疫グロブリン製剤を月1回点滴する治療です(保険未承認)。免疫グロブリン製剤は活発になりすぎた免疫を抑える働きがあり、「炎症」が鎮まると考えられます。神経症状が出てから時間が経っていないうちにIVIGを開始すると、症状の進行が緩やかになるのではと言われています。しかし、 IVIGによって症状が良くなることはありません。

  • シタラビン療法

    LCHの初期治療でも使われるシタラビン(Ara-C)の点滴によって、症状が改善したという論文が1つあります。Ara-Cは脳に行きわたりやすい抗がん剤なので、脳内で暴れているマクロファージをおとなしくさせる可能性はあります。しかし、初期治療としてAra-Cを使っていても中枢神経変性症になる患者さんがあること、効果があったという報告は1つだけであることから、本当のところはわかりません。

  • BRAF阻害剤・MEK阻害剤

    脳の中で暴れているマクロファージの一部は、LCH細胞と同じBRAF V600E変異を持っていることは前述しました。BRAF V600E変異によって、マクロファージは狂暴になっているのですが、BRAF V600E変異の働きを止める、BRAF阻害剤という薬があります。BRAF V600E変異によって悪性化している皮膚がんの悪性黒色腫などには、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の2つを組み合わせた治療が保険承認され広く使われています。MEK阻害薬は、BRAF遺伝子の下流に位置するMAP2K1遺伝子(「LCHってどんな病気」の「4.原因はなんですか?」を参照)の働きを抑える薬です。日本では2023年11月に、BRAF V600変異陽性の体重26kg以上の組織球性腫瘍の患者さんに対して、BRAF阻害剤であるダブラフェニブとMEK阻害薬であるトラメチニブの組み合わせ治療が保険承認されました。BRAF阻害剤やMEK阻害薬が、LCH関連中枢神経変性症の患者さんの脳MRI異常や神経症状を改善したという報告が少し出てきています。まだ世界で20例も報告はありませんが、神経症状の出ていない放射線学的NDや臨床的NDでも神経症状が出てから数年以内で、神経細胞の破壊が進んでいない患者さんには効果が期待できそうです。しかし、皮疹や肝臓障害の副作用があります。また、いつまで続けたらよいのか(止めると悪化する)やBRAF阻害薬とMEK阻害薬の2つを組み合わせたほうがいいのか、わからないことが多くあります。よって、まだ研究として行われるべき治療です。

おわりに

LCH関連中枢神経変性症は、LCHの最も重大な晩期続発症で、数%の患者さんが発症します。LCHと診断されてから数年してから脳MRIの異常が現れ、次第にふらつきなどの症状が出ます。BRAF V600E変異のある患者さん、中枢性尿崩症・下垂体前葉機能不全を続発した患者さん、中枢神経リスク部位へ再発した患者さんは、発症リスクが高くなります。神経細胞の破壊が進んでしまうと改善することはありません。まだ研究段階ですが、BRAF阻害剤およびMEK阻害剤で早期に治療すれば改善する可能性があります。LCH関連中枢神経を発症リスクのある患者さんは、脳MRI検査を定期的に受けて、早期に異常を見つけることが大切です。

もっと詳しく知りたい方への参考文献

  • 森本 哲, 坂本 謙一, 工藤 耕, 塩田 曜子. 組織球症に続発する中枢神経障害:改善が期待できる中枢神経変性症. 臨床神経学. 2024; 64: 85-92.
  • 坂本 謙一、塩田 曜子、森本 哲、今宿 晋作. Langerhans 細胞組織球症関連中枢神経変性症. 日本小児科学会雑誌. 2021; 125; 1524-1535.
  • Sakamoto K, Morimoto A, Sato A, Kudo K, Kudo K, Shioda Y, Imashuku S. Current understanding and challenges on Langerhans cell histiocytosis associated neurodegenerative disease (LCH-ND). Curr Trends Neurol. 2024. (in submission)
  • Sakamoto K, Morimoto A, Shioda Y, Imamura T, Imashuku S; Japan LCH Study Group (JLSG). Long-term complications in uniformly treated paediatric Langerhans histiocytosis patients disclosed by 12 years of follow-up of the JLSG-96/02 studies. Br J Haematol. 2021; 192: 615-620.
  • Sakamoto K, Morimoto A, Shioda Y, Imamura T, Imashuku S; Japan LCH Study Group (JLSG). Central diabetes insipidus in pediatric patients with Langerhans cell histiocytosis:
  • Results from the JLSG-96/02 studies. Pediatr Blood Cancer. 2019; 66: e27454.

AMED難治性疾患実用化研究事業「組織球症に続発する中枢神経変性症の診断・治療エビデンスの創出」塩田班